「専業主婦でモヤモヤ」なら一歩外へ。帯同期間は“試す”のにちょうどいい【帯同経験者インタビュー】
- Miyako Beppu
- 9月30日
- 読了時間: 7分
更新日:10月3日
「帯同生活をもっと充実させたい。でも、何をどう始めたらいいのだろう——」
多くの帯同者が抱えるそんな想いにお役に立てるよう、LIFE TIPSでは新シリーズ【帯同経験者インタビュー】をスタートします!
第1回は、妊娠8か月、2人の子どもを連れての渡星という大きな転機を経験し、現在は産後マッサージのセラピストとして活躍されている、「sarasa spa at home」のゆかりさんです。

「子どもの幸せと子どもに使うお金は比例しない」 「自分も大変、でも夫も大変。お互いさま」 「今日、目の前のことをやらないと次は無い」
インタビューで語られた言葉はどれも実体験からにじみ出たものばかりです。
子育てもキャリアも自分らしく歩んできたゆかりさんの軌跡には、帯同生活を有意義に過ごすヒントが詰まっています。
産後のママを支えるケア。「自分を労わることは家族を大事にすること」

現在ゆかりさんは、産後まもないママに向けて、自宅への出張マッサージを提供しています。出産直後からおよそ3か月は、ホルモン変化で心身が揺れやすい時期。
「産後の体は疲れているし、ホルモンの変化で気持ちも不安定になりがち。でも赤ちゃんは可愛い。だからつい頑張って無理をしてしまう人が多いんです」
施術は全身のオイルマッサージに加え、母乳トラブルの予防や悪露排出を促すお腹のケアも。さらに布で腹部と骨盤を固定する「バインディング」で回復を助けます。
シンガポールを含む東南アジアでは産後ケアが文化として根付いています。
「出産は人生のビッグイベント。出産した人が一番大事にされなければならない。自分を労わることは、赤ちゃんや家族を大事にすることにつながります」
妊娠8か月、子ども2人を連れて。手探りで整えたシンガポール生活

ゆかりさんがシンガポールに来たのは2012年。妊娠8か月で、小学1年生と幼児の2人を連れての渡星でした。きっかけは、東日本大震災を受けて夫の会社がシンガポールへ移転したことです。
当時は学校情報がオンラインにほとんどなく、一校ずつ電話で確認。校長先生に会いに行き、外国人受け入れの可否や途中入学の条件を直接確かめました。
「出産間近で暑い中幼子を連れて出歩くのは大変でしたが、他に調べる術もなく、自分で動いて一つ一つ整えていきました」
夫のリストラへの不安が働くことへの後押しに
出産を終えてようやく落ち着けると思った矢先、夫の会社で解雇が続きました。
「次は夫かもしれない」
不安が現実味を帯びる中、ゆかりさんには日本やロンドンでセラピストとして働いた経験がありました。できることがあるのに動かないほうがストレスだと感じ、母乳育児の最中でしたが、現地サロンの面接へ。
採用が決まり、サロン勤務を開始。のちに就労ビザ(EP)も取得しました。夫が転職活動中は、自ら家族のビザスポンサーになることもありました。
目の回る忙しさの中でも「自分」でいられる楽しさ
仕事を始めると、フルタイム勤務に家事、育児。子どもの発熱や学校からの呼び出し、夫の転職や入院……対応すべきことは尽きず、忙しい毎日になりました。それでも「仕事は楽しかった」と振り返ります。
「お客様がまた自分を求めて来てくれる。多国籍の仲間と働いて、主婦や母じゃない“自分”になれる。そんな時間が嬉しかった」
「正直、家はぐちゃぐちゃ。学校からの呼び出し、夫との喧嘩も何度も。色々大変なことが重なるとワーッとなる。でも今日やらないと次は来ない。今やれば次はもっとステップアップできるから」
やがて永住権を取得し、自宅訪問の産後マッサージ「sarasa spa at home」をスタートしました。

自分も楽しみながら、お客様の喜びにつながる工夫を積み重ねる——その姿勢が信頼となって、着実にリピーターが増えていきました。
母親が満たされることが家庭の健康につながる
ゆかりさんは、女性が働き、自立することの意味を「充実感を得られること」と語ります。
「仕事を頑張ったあとのご褒美——ちょっとした買い物や家族旅行が、毎日のエネルギーになります」
さらにこう続けます。
「子どもの幸せと子どもにかけるお金は比例しない。母親が満たされていなければ、家庭も健やかでいられない。だから、育児に使うお金があれば私が贅沢します(笑)」
子ども中心の時期もありましたが、外の世界を持つことで価値観や人間関係の幅が広がり、それが子育てにも良い影響を与えました。
「仕事は責任やストレスもあるけれど、人として健康でいるために大切な要素。子どもと関係ない世界で過ごすことで視野が広がり、子どもにもより健康的に接することができました」

子育ては「24時間向き合う必要はない」
突然の発熱やケガ、友人関係のいざこざ、いじめ、勉強の悩み、盗難、そして学校からの電話……。子育てにはトラブルがつきものです。
「だから親が子ども中心になるのも無理はないし、大事なこと。でも、24時間子どもと向き合う必要はありません」
「結局そういったトラブルは、誰もが大人になる過程でどこかで遭遇するもの。自分で経験しないと、自分を守る術は身につかない。だから子どもに経験させるために、親はただ見守ることも大切だと思います」
幼いうちは親がいないと何もできなかった子どもも、保育園、小学校と成長するにつれて、自分で考えて行動するようになります。
「子育てにどっぷり漬かれるのは最初の10年くらい。子どもは成長したけど、じゃあ自分は? と立ち止まる瞬間が必ず来ます。子育てだけで一生は終わりません」
子どもが大きくなって進路や仕事で悩むとき、自分の経験をもとに知恵を伝えられる母親でありたい——そんな思いもあって、仕事と向き合ってきたと語ります。
「自分ばかり大変!」——それは相手も同じ
駐在中は出張が増え、帯同する側はどうしても家事・育児が中心になりがちです。
「出産、育児、主婦・主夫業、仕事、ケガ、病気、お金のこと…問題が次から次へと出てくると、自分ばかりが大変!と思うし、実際に大変です。でも、それは相手も同じ気持ち。お互いさま」

夫婦が悩み、話し、働き、子育てをしてきた姿を子どもたちは見て育ちます。夫婦の「良くない面」も反面教師になり、親の人間らしさを学ぶ機会にもなる——マイナスばかりではない、とゆかりさんは話します。
「子どもが小さいうちはあんなに喧嘩したのに、子どもが大きくなるにつれて夫婦仲も戻ってきます。喧嘩しているうちが華ですよ」
帯同期間は「試す」のにちょうど良い期間
「今、専業主婦でモヤモヤしているなら、専業主婦に向いていないのかもしれません。一度、外に出てみてください。時間のある帯同期間こそ、いろいろ試せる貴重な機会です」
とゆかりさん。
ゆかりさんも、かつては「失敗が怖い」「周りの目が気になる」と感じていたそうです。ただ、アメリカ人の夫との暮らしの中で、価値観は少しずつ変わっていきました。「人にどう思われるかより、自分がハッピーかどうか」と考えるようになり、「怖いからやめておく」より「やりたいからやる」へと切り替わっていきました。
「同じ習い事でも活かし方は何通りもあります。最初からお金になるかどうかは関係なく、まずは楽しそうだからやってみる。結果としてお金になれば、さらに楽しくなる。そのうちに、これもできるかもとアイデアが膨らんでいきますよ」
産後ケアを当たり前の選択肢に

現在は施術だけでなく、産後マッサージのセラピスト養成にも力を入れており、「産後マッサージ」と「フェイシャルクラス」の2つのレッスンを提供しています。
「日本ではまだ一般的ではありませんが、産後マッサージは、出産した人すべてに必要なケアです。ママの心身を整えることが家庭の幸せにつながる。その考えを広めていきたいと考えています」
講習では、実技に加えて産後の身体の変化や文化的背景も学びます。修了証を発行し、シンガポールでも日本でも開業や就業に活かせる実践的な設計にしています。
「子どもの手が離れたあとのポジティブな未来をイメージして、帯同期間を準備期間と捉えて何かを始めてみてください。自分ができることがあるのは幸せですよ。充実感を得られる何かに出会えますように!」
プロフィール|「sarasa spa at home」セラピスト・ゆかり

東京・ロンドン・シンガポールのスパ(VOX STUDIO、Swiss Club)でトータル経験25年ほど。産後マッサージを中心に、自宅訪問でのケアを提供。Pro Therapist Academy 認定・産後マッサージセラピスト。
「日本のおもてなし」を大切に、多文化のクライアントと向き合いながら、心身の回復と安定を支える施術に取り組む。
主な拠点歴: 1992–1997 東京 1997–1999 ロンドン 1999–2012 東京 2012–現在 シンガポール
お問い合わせ:Instagram(@sarasa_spa_athome)
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